製造業RAG導入で直面した「技術はOK、でも使われない」問題の正体と解決策

目次

🔍 はじめに

「RAGシステム、完璧に動いているのに誰も使わない…」

AI導入プロジェクトを担当している方なら、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。技術的には成功、でもビジネス的には失敗。投資対効果を説明できない。上司からは「で、結局効果はあったの?」と聞かれる。

私も2024年初旬、まさにこの現実に直面しました。LangChainでRAG構築経験もあり、Difyなら簡単にRAGが作れると確信していた私が、なぜ「使われないRAG」を作ってしまったのか。そして、その失敗から何を学び、どう改善したのか。

同じ悩みを抱える製造業IT担当者の皆さんに、リアルな体験談をお伝えします。

この記事は、まだ道半ばの「途中経過レポート」です。
成功談として語れるほどRAG導入が軌道に乗ったわけではなく、
「習慣化フェーズを乗り越えた先にどのようにRAGを再展開するか」
まさに検討・実行している最中です。
現時点での学びを共有することで、同じ課題に直面している方のヒントになれば幸いです。

📊 第1弾PoC:自信満々の失敗

なぜRAGが必要だと思ったのか

私は日々、機密に配慮しながら生成AIを業務で活用していました。社内の技術文書検索に時間がかかる現状を見て、「RAGがあれば絶対に業務効率が上がる」と確信していました。

LangChainでRAG構築経験もあり、ノーコードで簡単にRAGが構築できるDifyなら、社内で確実に役立つと判断。2024年初旬、検証環境として自部門の15名でPoCを開始しました。

対象文書とシステム構成

対象は当時推進していたプロジェクト関連文書や、日常確認することがあるドキュメントを業務単位でRAG化。技術的には問題なく動作し、精度も十分でした。

「これは成功間違いなし」 そう思っていました。

3ヶ月後の現実

ところが、3ヶ月後の利用状況調査で愕然としました。

  • 私の期待:毎日のように使ってくれるはず
  • 現実:月数回、多くても週1-2回程度の利用

15名のメンバーに個別ヒアリングした結果:

  • 「悪くはないけど、使う場面があまりなかった」
  • 「いつもの方法で十分見つかる」
  • 「RAGに聞くほどでもない」

これではROIが成立しません。

💡 失敗分析:見えてきた3つの根本課題

メンバーと意見交換を重ねる中で、以下の課題が明確になりました。

1. RAG対象が狭すぎる問題

課題: 特定プロジェクトや業務単位のRAGでは、利用するタイミングが限定的
現実: 「このプロジェクトのことを調べたい」というニーズは週に数回程度

2. 慣れ親しんだ情報の盲点

課題: 日常よく使う情報は、RAGに問い合わせなくてもすぐに探せる
現実: よく知っている分野ほど、従来の検索方法で十分対応可能

3. 業務フローへの組み込み不足

課題: 既存の情報検索習慣(ファイルサーバー、人に聞く)が変わらない
現実: 新しいツールを使う「きっかけ」が日常業務に組み込まれていない

🔄 第2弾PoC:範囲拡大への挑戦

アプローチの転換

第1弾の反省を踏まえ、戦略を大きく変更しました。

従来: 業務単位の専門的RAG
新方針: 包括的な「なんでも聞けるRAG」

ハルシネーションのリスクは高まるものの、「とりあえず何か確認したかったらこれに聞けばOK」というRAGを目指しました。

対象情報の大幅拡大

  • 社内ITシステムのドキュメント・ヘルプ
  • 蓄積しているQAデータ
  • 社内の基本的な業務ルール
  • ガバナンス関連情報
  • その他オールジャンルの社内情報

第2弾PoCの結果

3ヶ月間実施した結果:

良い面:

  • 利用頻度は若干増加
  • より幅広い質問に対応可能

課題:

  • ハルシネーションの発生増加
  • 大幅な利用頻度向上は見られず

⚡ 本質的な課題の発見

2回のPoCを通じて、私は重要な気づきを得ました。

根本課題:生成AI利用習慣の欠如

問題の本質: RAGの精度や機能ではなく、生成AI自体を日々利用する習慣がないことが最大の障壁

私との大きなギャップ:

  • 私: 生成AIを毎日業務で活用、使って当たり前
  • メンバー: 生成AI利用習慣がない、必要性を実感していない

この気づきは、その後のアプローチを根本から変える転換点となりました。

🎯 解決策:習慣化ファーストアプローチ

戦略転換:RAGより先に習慣化

従来の間違ったアプローチ:
RAG構築 → 使ってもらう → 習慣化

正しいアプローチ:
生成AI習慣化 → 自然な利用拡大 → RAG等の高度活用

具体的な習慣化施策

1. Copilot利用方法の事例紹介教育

  • 明日から使える具体的な活用法
  • 制約条件下での現実的なアプローチ
  • 身近で実用的なデモ中心

2. 社内事例の積極的共有

  • 成功事例の横展開
  • 失敗事例からの学び共有
  • 段階的なフォローアップ

3. ブログ形式での継続的情報発信

  • 生成AI知識の体系的習得支援
  • 最新情報の定期的な提供
  • 疑問・課題への継続的対応

途中成果:Copilotライセンス利用者3倍増(RAG再挑戦への土台)

この習慣化重視のアプローチにより、累計200人を超える社内AI講習を実施し、Copilotライセンス利用者が3倍に増加という具体的な成果を達成できました。
とはいえ、これは 「RAG再チャレンジに向けた基盤がようやく整った」 段階にすぎません。
次のステップとして、これらのユーザーを対象に PoC第3弾=本格RAG展開 を計画しています。
結果が出次第、改めてレポートを共有する予定です。

RAG導入成功の3つの前提条件

実体験から学んだRAG導入成功の必須条件をお伝えします:

1. ユーザーの生成AI利用習慣が確立されている

  • 週1回以上の生成AI活用
  • 基本的なプロンプト作成スキル
  • AI活用への心理的抵抗の軽減

2. 明確な利用シーンが定義されている

  • 従来方法では解決困難な課題の存在
  • RAG利用のトリガーとなる業務フロー
  • 期待する成果の具体的設定

3. 継続的な改善サイクルが設計されている

  • 利用状況の定期的モニタリング
  • ユーザーフィードバックの収集・分析
  • システム・運用の継続的最適化

✅ 製造業RAG導入成功のためのチェックリスト

RAG導入を検討している製造業IT担当者の皆さんに、私の失敗から学んだチェックリストをお伝えします。

導入前の必須確認項目

□ 生成AI利用習慣の現状把握

  • 対象ユーザーの生成AI利用頻度は?
  • 基本的な活用方法を理解している人は何割?
  • 日常業務で生成AIを使う場面を想像できるか?

□ 既存の情報検索行動分析

  • 現在、どのような方法で情報を探しているか?
  • その方法で困っている具体的な場面は?
  • RAGでないと解決できない課題は明確か?

□ 業務フローへの組み込み設計

  • RAGを使う「きっかけ」は日常業務に組み込まれるか?
  • 既存の作業手順のどの部分を変更する必要があるか?
  • 変更に対する現場の抵抗はどの程度か?

段階的導入のためのステップ

Phase 1:生成AI習慣化(2-3ヶ月)

  • 基本的な生成AI活用教育
  • 身近な業務での実践体験
  • 継続的なフォローアップ

Phase 2:簡単なRAG体験(1-2ヶ月)

  • 小規模なRAGでの価値体験
  • 使いやすさ重視の設計
  • 利用状況の詳細分析

Phase 3:本格的RAG導入(3-6ヶ月)

  • 習慣化されたユーザーベースでの本格導入
  • 継続的な改善サイクル
  • ROI測定と最適化

□ 業務フローへの組み込み設計

  • RAGを使う「きっかけ」は日常業務に組み込まれるか?
  • 既存の作業手順のどの部分を変更する必要があるか?
  • 変更に対する現場の抵抗はどの程度か?

段階的導入のためのステップ

Phase 1:生成AI習慣化(2-3ヶ月)

  • 基本的な生成AI活用教育
  • 身近な業務での実践体験
  • 継続的なフォローアップ

Phase 2:簡単なRAG体験(1-2ヶ月)

  • 小規模なRAGでの価値体験
  • 使いやすさ重視の設計
  • 利用状況の詳細分析

Phase 3:本格的RAG導入(3-6ヶ月)

  • 習慣化されたユーザーベースでの本格導入
  • 継続的な改善サイクル
  • ROI測定と最適化

🤝 同じ課題で悩む皆さんへ

私からの学び

この2回のPoCは、表面的には「失敗」でした。しかし、私自身が使って当たり前という感覚と、他の人たちとのギャップに気づかされたという意味で、非常に有益で大きな実績となりました。

技術的な完璧さを追求するより、人と組織の変化対応力が製造業AI導入成功の鍵であることを身をもって体験しました。

推奨アプローチ

もし今、RAG導入を検討されているなら、以下の順序をお勧めします:

  1. まず生成AI利用習慣の現状を正確に把握する
  2. 習慣化されていなければ、RAGより先に基本的な生成AI教育から始める
  3. 小さな成功体験を積み重ねて、自然な利用拡大を促す
  4. 十分な習慣化ベースができてから、RAG等の高度な活用に進む

一緒に学び、改善していきましょう

同じような課題を抱えている方、類似の失敗経験がある方は、ぜひ気軽にコメントや質問をお寄せください。成功事例・失敗事例の共有も大歓迎です。

一人ひとりの経験を持ち寄ることで、日本の製造業AI導入のナレッジを一緒に蓄積していければと思います。

🎬 最後に

私たちの取り組みは、まだ「成功物語」には到達していません。
生成AI習慣化という土台を固め、これからRAGを再度展開していく――。
そんな 「現在進行形」の挑戦 を共有することで、読者の皆さんと一緒に学び合えればと考えています。

「技術はOK、でも使われない」

この現実は、決して技術力の問題ではありません。人と組織の特性を理解し、段階的なアプローチで取り組めば、必ず乗り越えられる課題です。

私の失敗経験が、同じ道を歩む皆さんの一助となれば幸いです。

🎬 最後に:同じ道を歩む皆さんへ

「技術はOK、でも使われない」

この現実は、決して技術力の問題ではありません。人と組織の特性を理解し、段階的なアプローチで取り組めば、必ず乗り越えられる課題です。

私の2回のPoC失敗も、結果的には「習慣化の重要性」という貴重な学びをもたらしてくれました。同じような経験をされている方は、決して諦めず、アプローチを変えて再挑戦することをお勧めします。

大切なのは完璧なRAGを作ることではなく、現場の人が自然に使いたくなるAI活用環境を整えることです。


💬 ご質問・ご相談
記事に関するご質問や、AI導入でお悩みのことがあれば、お気軽にコメント欄やSNSでお声がけください。特に同じような失敗経験がある方、成功事例をお持ちの方からのご意見をお待ちしています。

🔗 関連記事

📧 定期的な情報発信
製造業AI導入の現場レポートを週2回お届けしています。実務で得た最新の知見や失敗談、成功事例を継続的に共有していきます。同じ課題で悩む仲間として、一緒に学び成長していきましょう。

📱 SNSでのつながり

  • X (Twitter): @Amu_Lab__ – 日々の気づきや速報をシェア
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次